聖パウロ女子修道会 協力者会 −ともに福音を宣教するために−

「パウロにとって十字架とは・・・
        〜 一コリント 1.18-31より 〜」 1

聖パウロ女子修道会 Sr. 井上真紀子

はじめに

コリントの遺跡
コリントの遺跡

 去年の6月28日からはじまった「パウロ年」も、残すところあとわずかとなりました。この1年の間に皆様もパウロの書簡などを通して、彼のキリストとの出会い、回心、生き方に触れ、恵みを願って過ごしてこられたことと思います。

 パウロの姿に触れるとき、わたしたちが感じるのは、彼の宣教に対する熱心さでしょう。

 異邦人の使徒として選ばれたパウロは、以前は熱心なファリサイ派として教会を迫害していました。しかし、ダマスコ途上でイエスと出会ったことによって、一転してキリストを宣べ伝える使徒となりました。3回訪れたコリントの信徒に宛てた手紙の中で、彼は自分の信仰、宣教の中心は「十字架につけられたキリスト」であり(一コリント 1.23)、「わたしはあなたがたの間でイエス・キリスト、それも十字架につけられたキリスト以外、何も知るまいと心に決めていた」(一コリント 2.2)と語っています。迫害者だったパウロをこのように全く変えてしまい、いのちの危険にさらされても恐れることなく海を越えて宣べ伝えた「イエスの十字架」とは、彼にとって一体何だったのでしょうか。

 これから3回にわたって、コリントの信徒への手紙一1章18-31節をもとに、皆様とご一緒にふり返ってみたいと思います。

「コリント」という都市について

 ギリシアにあるコリントは、地中海に位置する港町です。紀元前600年ごろ、道路が造られ、商業、文化の町として栄えました。パウロの時代、人口は約50万人で、約3分の2は奴隷だったそうです。街の守護神は、ギリシア神話に出てくるアフロディーテでした。この女神は愛、美、性を司る女神で、街には女神をまつる立派な大神殿が建てられました。一説には約1000人の神殿娼婦がいたと言われています。経済が発展する大都市である一方で、人々は享楽的な生活を送っていました。学問においては、哲学や修辞学がさかんでした。このような社会状況の中で、人々の心の中には、身分、経済、学問などの面で、他者より優位であることを誇りに思う考え方が形成されていきました。

 パウロは、第2回宣教旅行のときにマケドニアからアテネを経てはじめてコリントを訪問し、共同体を設立しました。(一コリント 4.15、使徒言行録 18.1-12)共同体の人々は、異邦人(使徒言行録 12.2)と、アキラ、プリスキラ、会堂長クリスポのようなユダヤ人(使徒言行録 16.19、18.2-8)で構成されていたようです。

テキストから読みとれるコリント教会の問題

 パウロは第2回宣教旅行のときに1度、第3回宣教旅行では2度、合計3回コリントを訪れています。それだけ訪問し、手紙を送っているのは、共同体がいくつかの問題を抱えていたからでした。今回扱うテキストとも関係しています。

 コリントの信徒への手紙一1章11-12節に、「わたしの兄弟たち、実はあなたがたの間に争いがあると、クロエの家の人たちから知らされました。あなたがたはめいめい、『わたしはパウロにつく』『わたしはアポロに』『わたしはケファに』『わたしはキリストに』などと言い合っているとのことです」と共同体の分派争いについて、クロエの家の人たちがパウロに報告している記述があります。ここに出てくる「アポロ」という弟子はコリントの信徒への手紙一に7回、使徒言行録に4回登場します(注)。

 使徒言行録18章24節には、「さて、アレクサンドリア生まれのユダヤ人で、聖書に詳しいアポロという雄弁家が、エフェソに来た」、28節には「彼が聖書に基づいて、メシアはイエスであると公然と立証し、激しい語調でユダヤ人たちを説き伏せた」とあり、弁論術にたけた人物だったことが分かります。また、知恵を愛し、修辞学を尊ぶギリシア文化の中で、パウロのことを「実際に会ってみると弱々しい人で、話もつまらない」と、批判していた人々がいたことがコリントの信徒への手紙二10章10節に書かれています。信徒たちは、アポロのようにパウロも雄弁家であってほしいと願っていたようです。

 この争いは洗礼の授与者によっていくつかのグループが生まれたことが発端でした。人々は自分に洗礼を授けてくれた指導者を尊敬し、それぞれの党派を作ることで共同体は分裂していきました。この問題を解決するために、パウロはコリントの信徒への手紙一1章18節から「十字架」をモチーフにして、信徒たちに教えています。

photo by:Shoko Shirai


 次回は、この「十字架」がユダヤ人、ギリシア人にとってどのようなものであったかを見ていきたいと思います。

注:一コリント 1.12、3.4、5、6、22、4.6、16.12、使徒言行録 18.24、26、27、19.1